うじうじと考えることが、とても豊かな時間になるということだ。
新地方論 あらすじ
「都市か、地方か」という二項対立の図式で語られがちな日本の地方問題。本書では複雑で多様であいまいな地方の姿を、10のテーマで「自分ごと」目線で考えていく。だれかの語る「都市か、地方か」の議論ではなく、自分なりのローカルな暮らしへの思考へ――。第18回大佛次郎論壇賞を受賞後、福島県いわき市を拠点に、ますます活躍の場を広げる著者の思考と実践の記録。
新地方論 「どちらか」ではない「どちらも」
帯にも書いてあるのですが、「どちらか」ではない「どちらも」という言葉がとてもよくこの作品を表しています。
物事は二元論ではなく、グラデーションがあるよね、自分にとって居心地がいいところを探すことが大事だよねと、語りかけてくれます。
難しい学術的な話ではなく、小松さんが暮らしているいわき市を舞台に、日常で感じたこと、経験したことをベースに、都市や地方について一緒に考える作品です。
「うじうじと考えることが、とても豊かな時間になるということだ」
ぼくはこの文章を読んだ時、涙が出そうになりました。
都市部の孤独感、田舎の閉塞感、どっちにも振り切れないモヤモヤを抱えていたからです。
ぼくにとっては勇気をくれた本なので、とても思い入れが強い本です。
新型コロナウイルスの影響で変わった生活についても描かれているので、ぜひ読んでみてください。
新地方論 こんな人におすすめ
都会と田舎について書かれているので、田舎へ移住した人は読むと色々考えさせてくれる作品です。
小松さんが活動している地域は3.11の影響を受けているので、復興に関することもこの作品で触れています。
震災後の居場所や観光についても書かれているので、居場所づくりや観光に関わっている人はおすすめです。
小松さんはローカルアクティビスト(地域活動家)という肩書きを名乗っています。
その中でもメインでライターとして活動されているので、ライターや地域で活動している人は共感する部分が多いのではないでしょうか。
新地方論 心に残った言葉たち
定義があいまいだからこそ、そこには主観が入り込む。(中略)けれど、定義があいまいだということは、そこに想像の余地もあるということだ。つまり、「自分なりの都市」というものがあっていい。
「自分なりの都市」について考えるのはとても面白いなと思いました。
観光は、ぼくが、あなたが、その土地での暮らしを楽しむためにこそある。だれかとともに、だれかと一緒に、自分たちの地域を楽しむことを通じて、ぼくたちは地元に暮らす歓びまで感じることができるのだ。そうして外からやってくる人たちと地域を楽しみ尽くすうち、共感ならぬ「共歓」の場が立ち現れ、その先に、そこに暮らす「自分」が立ち上がってくる。それは地方創生ではない。まさに「自己創生」。新しい自分をつくるために、ぼくたちは観光し、観光されるのだ。
観光と聞くと外から来た人がお金を落とすイメージですよね。そこに自分という概念が入ってきて「自己創生」という言葉が出てきて、勉強になりました。
ぼくたちは「地方」というと、海と山と川とに囲まれた、自然が美しい、気のいいじいちゃんやばあちゃんがのほほんと暮らしている、というようなステレオタイプな地域を思い浮かべがちだ。そして、それと対置する形で、都合よく「都市」や「都会」や「グローバル」を考えてしまう。そうして二極化させて考えた方がわかりやすいからだろう。でも、実際には、完璧に「どちらか」に分けられるものなんてなくて、その間に、無限のグラデーションを身にまとった地方がある。その間で割り切れない複雑さを引き受けて、うじうじと考え続けるほかないよな、と思うのだ。(中略)うじうじと考えることが、とても豊かな時間になるということだ
この文章で泣きそうになりました。
都市と地方の間、個人と集団の間、孤独と同調圧力の間、「いる」と「やる」の間。そのなかに、自分にとって心地よい「ちょうどいい場所」を見つけていくのだ。都市か地方かという二項対立ではなく、その間をしつこく行き来することによって自分にとってのちょうどいい「第三極」を探ることが必要だろう。
この文章を読み、しつこく行き来し続けたいなと思いました。
対象に近づき、そのコミュニティに入り込むものの、同化はせず、おもしろい言葉や興味深い状況にアンテナを張っておき、必要なら写真もとったし、どれほど酔っていても、これは忘れたらダメだなという言葉は命がけでメモしておいた。だから取材していないともいえないのだった。ぼくたちは市内あちこちで、いうなれば「半取材」のような時間を過ごしてきた。(中略)記事には残らない。作品にもならない。いや、反対に、記事には残すことも作品にすることもできる。そういう宙ぶらりんな時間の中で、おもしろいものに目を光らせながら、ただ、そこにいて、共に時間を過ごす。するとあるとき、そこに暮らす人も、そこにある景色も、これまでとは違った輝きを放ち始める。
半取材。すごく好きです。これはきっと時間や締め切りに追われている記者さんは難しいんだろうなと思いました。そこに住んで暮らしているからこその取材の仕方。参考になります。
新地方論 感想
小松理虔『新地方論』読了。小松さんと一緒に旅をし、スタジアムで騒ぎ、カツオを食い、酒を呑みながらあちこちに話を寄り道させながら語り合ったような読後感。「で、そっちのローカルはどうよ?」と問われたときに自分のローカルを自分なりに言語化できるようになりたいと思う。#新地方論 pic.twitter.com/fj3kamsTdn
— 体操38歳 (@taisou_taisou) October 23, 2022
こっちのローカルについて考えていきたいです。
小松理虔さんの『新地方論』読み終わった。私は宿泊業飲食業として街に関わる立場ですが非常に共通言語が多く、共感と学びのある一冊。「こっちがいいよ」と断言することなく「間を行き来すればいい」という理虔さんの柔軟さに安心して読み進めることができる。12/16のトークイベントが楽しみだ。 pic.twitter.com/5xYJB4c3n2
— よこやまめぐみ (@mgmykym) November 26, 2022
安心さのある柔軟さ。身につけたい。
小松理虔さん「新地方論」
大上段からではなく、かと言って
閉じ籠るわけでもない。
論文やデータを引いたかと思えば、
日々の実感や偶然も書き綴る。
帯文の「どちらも」を都市と地方、
仕事と遊びなど”間”で考えていきたい。
㊗️いわきFC J2昇格!! pic.twitter.com/WRgRQpyarj— elephant (@e9ephant) November 13, 2022
論文やデータ、全然ないんですよね。都市とか地域とかって聞くとなんか難しそうな感じしますけど、とても読みやすい内容になっています。
新地方論 まとめ
『新地方論』は自分なりの都市について考える作品です。
自分の生活している地域について、一緒に寄り添って考えてくれる本ははじめてで、文章ってすごいなと改めて感じました。
こんな文章を書けるようになれるように、日々精進してきます。
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最後まで読んでいただきありがとうございました!
ではまた!
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