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書評:「ぼくは勉強ができない」山田詠美による青春小説

小説

 

 

空腹時のラーメンの至福は、恋愛のそれより上等だ。

 

 

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ぼくは勉強ができない あらすじ

ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ――。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪い。この窮屈さはいったい何なんだ! 凛々しくてクールな秀美くんが時には悩みつつ活躍する高校生小説。

思春期の悩みが痛快に描かれている小説!

『ぼくは勉強ができない』は、高校生の時田秀美が主人公の小説で、何かひとつの物語が展開されていくような感じではなく、学校や恋人との出来事がメインで描かれた短編集になっています。

小説というジャンルですが、哲学書といっても良いくらい、恋愛や物事に対する価値観について考えさせられる作品です。

進学、恋愛、片親、貧困、人間関係、さまざまなことがこの作品から学べると思いました。

出版社は「新潮社」と「文藝春秋」

山田詠美 『ぼくは勉強ができない』 | 新潮社
ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ――。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母

『ぼくは勉強ができない』は1993年、新潮社から出版されました。

ですが、2015年に文春文庫からも「不朽の青春小説が今再び!」というキャッチフレーズのもと、出版。

ぼく手に取って読んだのは、新潮社から出版された本だったので、文藝春秋の筆者書き下ろしメッセージが気になっています。

文藝春秋のサイトに、「綿谷りさ『ぼくは勉強ができない』で勉強してきた」という記事があり、とてもおもしろかったので、この作品を読んだことのある人はぜひ読んで欲しいです。

著者「山田詠美」のプロフィール

山田詠美さんは1959(昭和34)年に東京で生まれ、1985年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞を受賞しデビューしました。

直木賞や谷崎潤一郎賞、川端康成賞といった文学賞を数多く受賞している作家さんです。

2023年11月に公開された、日経 BOOK PLUSでは、「書き続けることはパスポートと滞在許可証」と山田さんは言っています。

私にとって小説を書き続けることは、パスポートや滞在許可証のようなものです。「自分国」という国にいるためにはそれが絶対に必要で、小説を書き続けなければパスポートと滞在許可証を失い、自分が自分でいられなくなる。分かりやすく言うと、そんな感覚です。だから、忘れてもいいはずの記憶をずっととどめて言葉にする自分を、どこかでいじましいとも思いながら、小説を書き続けています。

2023.11.23公開 日経 BOOK PLUS 『「虚構を支える根は作家の真実」自伝小説刊行の山田詠美氏に聞く』より引用

小説を書くことが自分の存在意義ってかっこいいですよね。

ぼくは山田詠美さんの作品は『ぼくは勉強ができない』しか読んだことがないので、他の作品も読んでみます。

ぼくは勉強ができない こんな人におすすめ

『ぼくは勉強ができない』の主人公は高校生です。

周りよりも大人な高校生ならではの悩みや葛藤を体験したい人は、ぜひおすすめです。

また、この作品が発行されたのは1993年。今から30年も前に書かれた作品です。

デジタル機器が出てこない時代背景の小説が読みたい人にもおすすめです。

また、『ぼくは勉強ができない』の一部が、1999年に実施されたセンター試験の国語の問題で扱われました。

試験で扱われるということはそれだけ文学的な作品ということなので、そのような魅力ある文学作品を読みたいと思っている人はぜひ手に取ってみてください。

ぼくは勉強ができない 心に残る名言たち

ぼくは思うのだ。どんなに成績が良くて、りっぱなことを言えるような人物でも、その人が変な顔で女にもてなかったらずいぶんと虚しいような気がする。女にもてないという事実の前には、どんなたいそうな台詞も色褪せるように思うのだ。

動物としての絶対的な勝ち負け。

声に色などない。しかし、色の付いた声が、ぼくの鼓膜に絡み付く。指の作る風もそうだ。そんなものは存在しない筈なのに、それは、ぼくの内側をそよがせる。たとえば視線。その源である瞳は、ぼくの記憶から失せているというのに、視線は幾筋もの束になり、ぼくの心を交錯している。

目に見えない抽象的な概念や現象をこうやって文字で表現できること、ぼくはかっこいいって思います。良いなと思ったので記録。

子供の頃は、皆の仲間に入りたくても入れないっていうもがいてる感じがあったんだけど、今は違う。ちゃんと、良い仲間に囲まれてるもん。なんか、上手く言えないんだけど窮屈なんだ。自由にしてるんだけど、居心地が悪いんだ。それも、誰のせいでもなく、自分のせいでそうなんだ。それが解ってるから発散できない。

良い仲間に囲まれているという認識ができている時点でめちゃくちゃ大人ですよね。そして、自分で自分を苦しめていることにも気づいている。わかっているのにどうにもできないモヤモヤ。高校生ならではの葛藤がリアルに描かれている表現だと感じました。

多分、ぼくを残して死ぬのは嫌だろうなあ、と、そこまで思うと、なんだかやるせなくなった。それは、大きな悲しみというより、一人分の空間ができることへの虚しさを呼び覚ます。人間そのものよりも、その人間が作り上げていた空気の方が、ぼくの体には馴染み深い。笑いや怒りやそれの作り出す空気の流れは、どれほど、他人の皮膚に実感を与えることか。多くの人は、それを失うことを惜しんで死を悼む。

1人の人間が作り出す空気って確かにありますよね。それは人によって違くて、この人がいたから、この人がいなかったから、ってこと、ある。その空気が皮膚に感覚を与えるっていうのが好きだなって思いました。

「でも、そんなつもりじゃなかったんだよ。赤間さんのプライドをつぶそうなんて、思いもよらなかったんだよ」
「そんなつもりじゃないのが一番悪い。悪意を持つのは、その悪意を自覚したからだ。それは自覚して、無くすことも出来る。けどね、そんなつもりでなくやってしまうのは、鈍感だということだよ。賢くなかったな、今回は。おじいちゃんの言っていること解るか」

貧しい家庭の赤間さんのプライドを傷つけてしまい、それをおじいちゃんに打ち明けるシーン。この小説ではおじいちゃんは明るく陽気なキャラクターで描かれているのに、このシーンはかっこいい大人になっていて、すごくよかったです。

ぼくは勉強ができない Twitterでの感想と反応

この作品を読んで、「優しい哲学書」と伝えれるのが素敵だなと思いました。
ぼくも読んでいて『君たちはどう生きるか』と同じような感覚がありましたね。哲学書に分類しても良いのかもしれないです。

『ぼくは、勉強ができない。でも、女性にはよくもてる』
キャッチーなタイトルですよね(笑)
星野源さんの『そして生活はつづく』も、実は、『くそして、生活はつづく』っていう裏話が好きです。

秀美とお母さんとおじいちゃんの3人のやりとり、ぼくも好きです。基本漫才をしているような関係性なんだけど、たまに出てくるお互いを愛している表現が素敵です。

まとめ

私の心は、ある時、高校生に戻る。あの時と同じように、自分のつたなさを嫌悪したり、他愛のないことに感動したりする。そんな時、進歩のない自分に驚くと共に、人は決して進歩しない領域があるものだと改めて思ったりする。そこで気づくのだが、私はこの本で、決して進歩しない、そして、進歩しなくても良い領域を描きたかったのだと思う。大人になるとは、進歩することよりも、むしろ進歩させるべきでない領域を知ることだ。

あとがきに書かれていた、山田詠美さんの言葉。

すげぇ、って思いました。

大人になるってことを考えたとき、自分は責任とかそういうことを考えてしまいます。

こういう表現ができるような大人になりたい。

このあとがきの文章に何か感じた人は、きっとこの作品と合うのだと思います。

ぜひ、読んでいただきたいです。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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